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PFNフェローの丸山です。2月18日に、PFNは文部科学省、総務省及び経済産業省の「未来の学び プログラミング教育推進月間」に協力して、小学校向けのプログラミング教材を作成することを発表しました。この教材は、今年の9月に一部の小学校で、総合学習の一環として利用されることを目指しています(指導案のページはこちらです)。この記事では、私達PFNがなぜこのような活動をしているかをお話ししたいと思います。
PFNは若い会社です。多くの若い社員が次々に家庭を持ち、子どもを育て始めています。社長の西川をはじめ皆、次の世代が活躍し、よりよい社会を作っていくことを強く願っています。これからの社会を考えたとき、マーク・アンドリーセンが「ソフトウェアが世界を侵食する」(Software is eating the world) と言ったことに象徴されるように、社会の価値の多くが情報技術、特にソフトウェアから得られることは明らかです。ですから、私達の次の世代の誰もが、小さい頃から情報技術に親しみ、プログラミングの楽しさを知る機会を持てることは、私達にとっても大変喜ばしいことです。そんな若い人たちが、ソフトウェアに興味を持ち、将来社会のあらゆる場で活躍している、そんな社会の実現をPFNは願っています。
新しいスタイルのプログラミング
同時に私達は、技術の進歩によって、今までとは違う新しいスタイルのプログラミングが現れつつあることも強く認識しています。簡単にするため、プログラムとはある入力Xに対して出力Yを計算する箱であると考えます。
このようなプログラムを作る1つの方法は、計算のルールを書き下すことです。たとえば、商品の価格を入力としてその消費税を出力するプログラムを考えましょう。このようなプログラムは、入力Xに対して「X の0.08倍を計算してYとせよ」 というルールで表現することができます。これが普通のプログラムの作り方で、ここではルールによるプログラミングと呼ぶことにしましょう。
しかし、深層学習という新しい技術によって、別の形のプログラミングが現れてきました。こんな例を考えてみましょう。人とじゃんけんをする機械を作るために、カメラで撮った手の画像を入力として、それがグー・チョキ・パーのいずれであるかを判定して出力するプログラムを作りたいとします。
このようなプログラムを、ルールによるプログラミングで作るのは容易ではありません。カメラで撮影した画像は画素が格子状に並んだものですが、ある画素が肌色だからこれはチョキだ、と判断するわけにはいきません。同じチョキでも位置や角度や光源が違ったりして毎回異なる画像になるからです。
そこで、深層学習では、様々に異なるチョキの画像をプログラムに見せて「これはチョキだよ」と教えていくことによってプログラミングを行います。これを例示によるプログラミングと呼ぶことにします。例示によるプログラミングでは、ルールを書くのが難しいようなプログラムも作ることができます。
一方で、例示によるプログラミングでは、例示に使うデータによっては、必ずしも毎回正解が出ないかもしれません。あるいは例示に偏りがあった場合には、偏りのある結果が出るかもしれません。これは、ルールによるプログラミングが(プログラムに誤りが無い限り)常に正しい答えを出すこととは対照的です。
将来のソフトウェア
例示によるプログラミングは、ここ10年ほどの、深層学習の急速な発展によって可能になってきていて、今までのルールによるプログラミングでは難しかった画像認識、音声認識、機械翻訳などに応用されつつあります。これは、1950年代にデジタル計算機が発明されて以来の最大のパラダイムシフトかもしれません。おそらく、将来のソフトウェアの多くは、ルールによるプログラミングと例示によるプログラミングを組み合わせたハイブリッドなものになるでしょう。
私達が今回の「未来の学び プログラミング教育推進月間」にご協力している真の理由はここにあります。今の子供達が大人になって、社会におけるソフトウェア開発の一翼を担うころには、例示によるプログラミングが広く使われていることは間違いありません。ルールによるプログラミングが苦手でも、例示によるプログラミングは得意だ、という子どももいるでしょう。
「プログラミング」を狭く捉えないで、いろいろな考え方があるのだ、ということを知ってほしい、それが私達の願いです。