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2014.03.20

のび太とインターネット・オブ・シングス

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Shohei Hido

VP of Research and Development

卒業式シーズンですね。比戸です。

今回はIoT (Internet of Things)やM2M(Machine-to-Machine)の話をします。

この2つの単語を日経記事やITニュースサイトで目にすることが増えました。将来PCやケータイ以外の様々なモノやセンサーデバイスがインターネットに繋がって情報を送り合って賢く連携することで、家が、オフィスが、街が、そして社会システム全体が便利で最適になる世の中が実現されると言われています。一方で、言葉やコンセプトは昔から存在しており、一時流行ったものの下火になっていたこともあって懐疑的な見方もあります。

「ドラえも~ん、ジャイアンが『そんなの俺も10年前に考えてた、のび太のくせに生意気だ!』っていじめてくるよ〜」

「スネオのやつも、『僕らが昔やってダメだったのにのび太にできるわけないだろ!』って言うんだ〜」

かわいそうなのび太くん、さて実際のところはどうなのでしょうか。

IoT が最初に有名になったのは2004年、MITの研究所がRFIDなど電子タグによってモノの位置や流れを管理できる=ネットワーク化できる未来をそう呼んだ時でした(Wikipedia)。M2M は機械同士が通信して協調し、動作を最適化するためのネットワークの仕組みを指していました(Wikipedia)。両者とも、実現すれば様々なビジネスや社会の仕組みを変えるインパクトがあり、市場も急拡大するはずということで期待を集めたものの、結局大きな変革にはつながらず、2000年代後半には話題としてもビジネス的にも下火になっていきました。

それが何故いま再び盛り上がっているかというと、ビッグデータ活用の潮流が挙げられます。アメリカ西海岸のWeb系大企業から始まった流れが他業種にも広まり、製造業やインフラ業において”データを集めて分析して最適なアクションを打つ”というユースケースを考えたとき「それって前にIoT/M2Mって呼ばれてたやつじゃん!」という結論に達したのだと思われます。さらに、当時は一部の尖った企業でしか採用されなかった”データを集めて何かする”という事業アイデアが、(賛否両論あるにせよ)ビッグデータブームの影響ではるかに上層部の承認を得られやすい環境となっているのもプラス材料です。

もちろん注目度の高まりとは別に、様々な要素技術もIoT/M2Mの本格化を後押しできるレベルに達してきています。10年遡るとセンサーの精度は不十分で、組み込み機器用プロセッサの能力は低く、通信モジュールは帯域が狭く、また衛星回線など専用線を使うとデータ転送コストが莫大にかかりました。その問題は、日々の技術革新によって大きく変わり、以前より高精度なセンサーに低消費電力の汎用プロセッサを載せ、地上の多くの地域で3G/LTE回線を通じた大容量かつ低コストの通信が可能となってきました。Ciscoの予測によれば、2020年には500億のデバイスがインターネットに接続されるそうです。

また、以前はネットワークプロトコルや通信インタフェースについても様々な規格が混在し、業界として単一の標準に則って相互接続可能なエコシステムを作る合意が取れなかったのが、短距離無線通信ではZigBeeの採用が広がり、IP網側では6LoWPANなどで省電力デバイス向けのインターネット接続を実現する方向で進んでいます。またM2M専用のサービス規格として主要関連団体が手を結んでOneM2Mの策定に取り組み、2014年半ばには仕様が確定する予定となっています。WebではHTTPが支配的だったアプリケーション層のプロトコルも、その効率とネットワーク障害耐性の観点から新しいMQTTに注目が集まっています。

そしてここ数年で急激に進んでいるのが、解析技術/ソフトウェアの進歩です。IoTやM2Mで扱われる生データはセンサー時系列や大量のログなどの非構造化データが中心であり、旧来のデータベースに蓄積して集計・可視化するのはコストだけが高く付きます。最適動作ロジックをルールで記述するアプローチは、千差万別な環境において時々刻々状況が変化するIoT/M2M環境での応用には不向きです。また、BIダッシュボードを人間が見てアクションを取るような意思決定プロセスは、リアルタイム性が重要となることが多いIoT/M2Mアプリケーションでは役に立ちません。しかし現在であれば、Hadoopクラスタやクラウドに蓄積した大規模データに対して解析処理を行うソフトウェアプラットホームは百花繚乱状態で、ユースケースに合わせて様々な選択肢がありますし、PFIも開発に携わるJubatusのようにリアルタイム性を必要とするIoT/M2Mアプリで機械学習による高度な処理を実現するOSSも存在しています。

IoT/M2Mの第一の波が去った後、それを言い換える、あるいは包含するコンセプトを打ち出していたのは、IBMのSmarter PlanetやCisco/QualcommのIoE (Internet of Everything)、GEのIndustrial Internetなど、ITベンダーやITインフラ、あるいはメーカー自身でしたが、今ではシリコンバレーを中心に西海岸のインターネット大企業や半導体メーカーまでもが様々な形で参入しています。

IoT/M2Mは昨年からゆっくりの注目度を増していましたが、キーワードとして急浮上したのは今年1月にGoogleがスマートホームコントローラーのNestを買収した前後で、Google Glassの開発や東大発のSchaftなどロボット関連企業の買収と紐付けて、”スマートデバイス市場への本格参入だ”と騒がれたあたりです。Googleは以前から自動運転への注力でも知られ、Intelも時同じくしてウェアラブル機器向けの小型省電力プロセッサ提供への積極参入を表明しましたし、Amazonは空飛ぶ宅配ドローン・Prime Airを開発し、Appleが先週配信を開始したiOS 7.1には車載システム連携のCarPlayが標準で搭載されています。このように車や新しいウェアラブル機器にネットワーク接続とスマートな機能を持たせる取り組みもIoT/M2Mの範疇と言えるでしょう。

“IoT/M2Mとは何か?”という疑問から入ると世界観や具体的な応用例から語られる事が多いですが、それ自体は過去の類似コンセプトや、探せば50年前のSF小説に出てくるようなものがほとんどです。そこからの差分で評価しようとすると、過去実現に失敗したことや、そもそも実現不可能なことのように感じられ、現在の状況がこれまでに比べて本質的な部分で何が違うのか見誤る可能性があると思っています。重要なのはアプリケーションの見た目ではなく、その実現に必要な要素技術の性能やコスト感、標準化、分析技術、市場が受け入れる素地がすべて揃いつつあるところにあるのです。

歴史を振り返れば、Googleはブームの後に遅れてやって来たWeb検索サービスでした。iPodは世界初のMP3プレイヤーではありません。Kindleの前に世に出て失敗した電子書籍はたくさんあります。真に新しい事業アイデアだけが価値を生むのではなく、例え既出のコンセプトでも周囲の環境変化を捉え、適切なタイミングで差別化可能な要素技術とビジネスモデルを組み合わせて価値を生み出す仕組みを作り、爆発的に普及するギリギリのラインを最初に超えたものが市場の勝者となる、IoT/M2Mもまさにその相転移が近いのではないかと考えています。もはや枯れたバズワードだと思って軽視していて、気付いたら自分たちだけ世界から取り残されていた、なんてことは避けたいですね。

人間並みの知能を備えたネコ型ロボットの登場は残念ながらまだ遠そうですが、その前に”インターネット・オブ・シングス”実現の転換点が今まさに訪れようとしているのではないでしょうか。最新技術や動向はこれからもこのブログ等で紹介していければと思います。

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