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2012.05.08

数学に近い分野の情報収集

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Kenta Ono

Engineer

はじめに

大野です。今回は数学に関する情報入手方法について、自分が知っている範囲でお話をしようと思います。特に4月に大学や大学院に入学した方や、数学の勉強を始めたいけれど何から始めればよいかわからないという方などを想定して紹介していこうと思います。

数学に限らないかもしれませんが、勉強をしようとすると解決すべき問題が色々と生じます。

  • そもそも文献(本・講義録・雑誌)はどこにあるのか
  • 文献はあるけれど、どれから調査・勉強を始めればよいか
  • 勉強を始めたけれどわからなすぎる。誰かに質問したいけれどどこで聞けば良いのだろうか

以下では大体この流れに沿って情報源などを紹介していこうと思います。

文献を探す

図書館

私の地域の公共図書館は比較的数学の本が充実しており、数学の本もよく借りています。どの分野でも専門書は通常の本よりも高額で、購入するのに躊躇するかもしれません。ですので、まず試しに図書館で借りてパラパラと読み、読めそうだったら購入して本格的にその本に取組むというのは悪くないと思います。

ただ、専門がかなり絞られてしまうと望みの本を探すのは難しいかもしれません。大学の図書館を利用できる方ならばそちらの方が断然専門書が入手しやすいと思います。ただ、あまりの文献の多く(講義録だけで1000冊以上あったり、同じシリーズで200冊以上あったりなど)、一目見ただけではどれが入門でどれが発展なのか見分けがつかないなど、何か目論見を立てて探さないと圧倒されてしまうかもしれません。どういう順番で本を読んでいけばよいかについては後述しますが、例えば大学のカリキュラムは参考になるかもしれません。

書評
「数学セミナー」「理系への数学」あるいは日本数学会の「数学」など数学関連の雑誌では、近刊される本や定番の本について書評が掲載されている事が多いです。その中から読みやすい本とおすすめされていたり、自分が興味を持っている分野の本を探すのは良いと思います。バックナンバーは図書館などならばおそらく1年分は入手できると思います。

古本屋
本を探す手段というと、本屋やamazonなどがメジャーだと思いますが、自分は古本屋も同等におすすめしたいです。これは関東近辺の方のみになってしまいますが、神保町などは古本の街として知られており、本屋によっても理工系・人文系など特色が多くあり専門書を入手することができます。例えば明倫館などは日本でも数少ない理工系の洋書が手に入る古本屋として有名だと思います。もちろん、望みの本がいつでも入手できるわけではないですが、時々行ってみるとおもしろいです。

定番の本
大学(国内外問わず)のカリキュラムを見てみると、比較的何回も参考文献や教科書として言及されている定番の本があります。定番の本は周りにも読んでいる人が多いので、わからないところを質問できたり、直接授業に役立つ可能性が高いです。目安としては、タイトルではなく人名で本が紹介されるようなものが定番と言われるものの可能性が高いのではないかと思います。例えば次のような本がそうだと思います。

  • 「線型代数入門」斎藤正彦
  • 「可環代数入門」Atiyah-MacDonald
  • 「可換環論」松村英之
  • 「多様体論」松島与三
  • 「代数幾何学」Hartshorne(厚くて大変だけど、知人曰く結局はこれに帰着するらしい)
  • 「複素解析」アールフォース

また定番の本を探す他の方法として、「数学セミナー」などを図書館で借りて、繰り返し言及されている本や、繰り返し言及されている分野と同じ題名の本(「代数幾何学」「確率論」など)を読む方法も考えられます。

Web

What’s new

What’s newはTerence Tao先生のブログです。Terence Tao先生は数学者で現在UCLAの教授で、2006年に素数列に関する業績でフィールズ賞を受賞しています。いわゆる純粋数学の分野で有名ですが、Compressed Sensingと呼ばれる手法についても論文があり、この技術は実際に画像の復元などに応用もされています。なんでもござれという感じのスーパーな数学者です。

このブログは今まさに大学で数学を勉強している大学生の方などに是非読んでいただきたいです。インフォーマルな場なのに、定理の前にはきちんとその定理で使われる用語の定義やそのモチベーションや、定理の応用などがすべて書かれており、これだけで論文か教科書になるのではないかというほどの充実ぶりです。

n Category Cafe, nLab

圏論(Category Theory)という数学の一分野があり、プログラマの方だと、「Haskellのモナドの理論的な背景は圏論の言葉で書かれている」という類の言説を聞いたことがあるかもしれません。このn Category Cafeはその圏(特に高次圏と呼ばれるもの)についての話題がを扱ったブログです(圏論については、例えばMacLane先生の「圏論の基礎」などが定番の教科書です)。
また、同じグループの方々が運営しているwikiにn Labがあり、調べ物や勉強を行うにはそちらが有用です。

(Haskellといえば今月下旬に弊社の田中さんと村主さんが訳された「すごいHaskellたのしく学ぼう!」が発売されます。私も楽しみにしています)

Algebraic Topology A Guide To Literature

Algebraic Topology A Guide To Literatureは、信州大学の玉木大先生が公開しているサイトで、その名の通り代数的トポロジー(algebraic topology)という数学の一分野について詳しい解説がされています。この分野自体の名前は数学を研究する方々が知っていれば良いと思いますが、他の分野を見てもこれだけ網羅的に解説された数学のサイトはほとんどないため、紹介させて頂きました。更新履歴を見るとほぼ毎日更新されており、精力的な活動に圧倒されてしまいます。

論文や教科書などを読んでいると、論文中の用語が既知のものとして扱われていたり、自分が知っている定義と論文で使われている定義が異なっていたり、分野の発展の経緯で用語の意味が変化したりするため、しばしば用語を追うだけでも苦労したりすることがあります。このように専門用語についてその始まりから発展の歴史を詳しく書かれたサイトは非常にありがたいです。

arXiv
arXivはプレプリント(論文集などに採録される前に刊行される論文)をアーカイブするサーバーです。数学だけでなく、理論物理、コンピュータサイエンスなどの論文も投稿されており、ご存知の方も多いと思います。毎日大量の論文が投稿されていますが、最新の情報が手に入るので、発展のスピードが速い分野の方などは毎日チェックしていると聞いた事があります。何も事前情報がない状態で、arXivからどの論文を読むのかを選択するかは大変だという印象があるのですが、例えばお気に入りの数学者がいてその人の論文が出ていないかをチェックするという使い方もできるのではないかと思います。

辞書・辞典

私自身が頻繁に利用する辞書は次のようなものがあります。

勉強する内容を選ぶ

数学科のカリキュラム

自分が「関数解析」という数学の一分野のとある本を読んだ時、本が前提としている知識がなかったために読むのに相当苦労した経験があります。数学科のカリキュラムは前提となる知識はそれ以前の学期に授業が開講するなど、その点を考慮されていると思いますので、学習をする際カリキュラムに沿って本を選ぶというのは、良い選択だと思います。例えば自分が調べられた範囲での数学科のカリキュラムは次のようになっています。

講義録

吉田さんも以前リサーチブログで大学の講義録を用いて勉強する方法について言及されていましたが、その方法は理論計算科学だけではなく、数学でも有効だと思います。新しい分野が教科書になっていないことが多く、最新の結果を勉強しようとすると論文か講義録となるという事は数学でも同じ事は起こると思います。自分の場合、それとは別に手軽に分野を見てみたいという動機で講義録を眺めたりします。また既にその分野に精通している人が講義録の形で先導してくれるので、それに従うという動機もあります。

問題はどのように講義録を見つけるかですが、例えば大学の数学科のサイトを見るとレクチャーノートなどを公開していたりします。また、大学の先生が個人のサイトで自身が行った講義の講義ノートを公開していたりします。例えば自分がGoogleでリー群(数学での研究対象の一つ)をPDFを検索したら、出てきたものはほとんどが講義録でした。

数学ソフトウェア

Macaulay2
Macaulay2はソフトウェアで、可換環論や代数幾何学という分野の計算に特化しているのが特徴です。日本語で言及された文献はそれほど多くは見つけられませんが、1992年から開発されている歴史の長いソフトウェアです。作者はDaniel Grayson先生(イリノイ大学), Michael Stillman先生(コーネル大学), David Eisenbud先生(UCバークレー校)の3人ですが、その他にもContributorの項を見ると30人程度の方が開発に関わっているようです。Macaulay2のサイトを見ると、Macaulay2が言及された論文一覧があります(2009年で更新が止まっているようですが...)。自分は試していないのですが、逆にこの論文一覧から周辺分野を勉強できるかもしれないです。

質問する

質問投稿型掲示板

Math Overflow

MathOverflowは質問投稿型の掲示板です。プログラマの方にはStackOverflowの数学版と言えばわかりやすいと思います。活用方法として、自分で質問をするというのもありますが、ここで用語を勉強するというのも有りだと思います。実際に大学で数学を研究されている方のガチの質問も来たりして、質問の内容自体が難しかったり、答えにも行間が開いていたりします。ですので、わからないところがあったら、それを解決すること自体が勉強になったりします。Math Overflowは研究レベルの質問がされることが多いですが、学部での勉強や高校での数学の質問に関しては次のような質問掲示板があります。

勉強会に参加する

勉強会の中には数学分野を扱っているものいくつか存在します。例えばPFIでアルバイトをしていて、自分と同じ時にPFIのインターンに参加したmr.konnさんが主催している「スタート圏論」はその名の通り初学者向けの圏論の勉強会です。

学会関係

日本数学会

日本数学会には「数学」という定期刊行物があります。これのバックナンバーは日本数学会のサイトからPDFで入手できます。

AMS

AMS(American Mathematical Society)は米国の数学学会です。AMSが刊行している論文としては、「Journal of the AMS」「Proceedings of the AMS」「Bulletin of the AMS」などがあります。数学に近い分野で論文を読むと、AMSが刊行しているこれらの雑誌に掲載されているものが少なからずあるので、なんとなく名前は聞いたことがある方もいるかも知れません。

上記で挙げたのはいわゆる論文集なのですが、それ以外におすすめしたいのが「Notices of the AMS」です。Noticesは論説や解説などもあり、通常の意味での雑誌に近いです。一部はオンラインでも読めます。特に数学を勉強し始めた人におすすめしたいのは、「What is…」です。例えばこのような数ページの記事なのですが、特にこの分野で流行っている言葉が紹介されています。

まとめ

今回は、数学色が強い分野について何か勉強しようとした時に、情報がある場所について紹介しました。何か数学の本を読んでいてわからないことがあったり、数学の分野を概観したいという時に、情報源多く知っているのは有用ではないかと思います。今回は自分の系統だっていない情報収集の方法を紹介させて頂きましたが、自分が知っている情報源は限られていますので、皆さんがどのようなところから情報を入手しているのかなどを教えていただけるとうれしいです。

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